山里 奈津実 個展
YAMASATO Natsumi solo exhibition

Bio+Photon

2023年10月24日(火)から29日(日)
12:00から18:00

KUNST ARZT では、昨年に引き続き6度目となる
山里奈津実の個展を開催します。
山里奈津実は、金を用いた表現の研究と
実践をベースに、光や命を表現する
日本画アーティストです。
本展は、「人体が発する光」を意味する
造語「Bio+Photon」と題し、あらゆる生命体が
発光しているという事実を踏まえ、
主に輝く絹を基底材とし、剣鉾や
金碧画の箔あしをモチーフにした掛軸を
中心に展示する予定です。
(KUNST ARZT 岡本光博)



展覧会コンセプト

人間は、科学が発達するもっと前から、
生命誕生の瞬間には光が常に存在していたことを
無意識に気付いていて、輝く素材である金が
絵画に長く用いられてきたことと、
どこかでつながっているのではないだろうか、
と根拠のないことを考えている。



YAMASATO Natsumi (b.1990 in Ibaraki pref.,
lives and works in Tokyo) is an artist who
explores "light" and "life" through
researching on the effect of gold expression.
She earned her PhD in Nihonga course
in Kyoto University of the Arts.



PRESS RELEASE




燕子花図屏風 左隻第4扇
2023
絹本着色 純金箔、兎膠、アルギン酸
320×1420mm


この作品は燕子花図屏風の箔あしをトリミングしたものです。
何か、規則性やヒントがないだろうかと
室町以降から桃山時代までの金屏風を必死で観て回るなかで、
燕子花図屏風の箔を端から見ていたところ、
すべての箔あしの格子が縦であることを確認できたときの
興奮した感覚を今でもはっきり覚えています。
美術館の中でおしっこを漏らしそうになる感じでした。
すごい発見だと興奮したのも束の間で、
私が何か新発見をするわけがなく、燕子花図屏風研究の文章に
箔あしの規則性について少し添えられていたことを
後日確認することとなります。
燕子花図屏風の目的は諸説あります。
草花図、伊勢物語の東下り、謡曲の杜若というように
専門家によって意見が分かれるところです。
私は謡曲の杜若であっただろうと想定し、
燕子花図屏風は能の舞台装置としても使われたのではないか、
と考えています。
私に能の造詣はありませんが薪能がとても好きです。
炎が面の白をぼおっと浮かび上がらせて、
光や風を感じながら時間や存在をワープできるからです。
私が観た薪能は、炎の他に照明を舞台に当てていたので
全体を見渡すことができました。
炎だけだったら全体は見渡せなくともより幻想的で、
この世のものではない存在も表現できたのだろうと感動しました。
現在、燕子花図屏風は根津美術館に所蔵されていますが、
以前は最古の能舞台があるとされる西本願寺が所蔵していました。
尾形光琳は幼い頃から能の舞台に父親と立つなど、
芸能に造詣が深く、また道楽を好み
大変な遊び人だったと言われています。
本妻を含めて6人の妻がいたという浮世離れしていた光琳は
「杜若」のストーリーなどの表層から更には理性で
コントロールの効かないどうしようもない心情までを理解していて、
能の舞台装置として、もし燕子花図屏風を用いてい
たとすれば、
題材を鑑みるとに夜に上演していたことと想定され、
灯りとしての炎のゆらめきは、縦に統一された箔あしを浮かびあがらせて、
静止画であるはずの背景がまるで動画のように
機能したのであろうと推測します。
光琳はそういった屏風の見え方が、
制作前の頭のなかで浮かんでいたはずです。
(作家による作品ノートより抜粋)




お師匠さんの厄祓い
2023
紙本着色 雁皮紙、板膠
190×333mm




以上、個展「Bio+Photon」2023 展示風景
撮影:ERINA WATANABE




Negative capability
2022
絹本着色 弁柄、兎膠、アルギン酸
340×930mm




Patterns 01
2022
絹本着色 弁柄、金泥




Patterns 02
2022
絹本着色 弁柄、金泥




境界線_六寸茶扇
2022
紙本着色 墨、金泥





Patterns 02'
2022
絹本着色 金泥



以上、個展「軸と線」2022 展示風景
撮影:OFFICE MURA PHOTO




8

2021
絹本着色 墨(玄元霊気)、鉛白、雲母、兎膠、アルギン酸
280×1310mm

タイトルの「8」は、「鈴(りん)」を「棹」に当てて音を出す時に、
8の字に振ることが由来です。
この音は、霊魂を鎮める音といわれています。
剣を、前後にまねかせ、鈴を左右に2回ずつ八の字型に棹に
押し当てて音を発するのが最高の技術とされていて、
音だけで鉾差しの熟練度が分かる方もいるそうです。
剣先の金の色は永世を表し、規則的に鳴る鈴の音は、
得体の知れない流行病などに対する恐怖を落ち着かせるための
ヒーリングミュージック的役割も担っていたのかもしれません。

「チリンチリン、チリンチリン」と左右に2回ずつ八の字型に
棹に押し当てた音をトリミングし、
音を視覚化した波形を軸に仕立てました。
白色には輝く素材である雲母を用いて、祈りを託しています。




8 逆再生 / 8 Reverse reproduction

2021
絹本着色 弁柄、銅箔、兎膠、アルギン酸
280×1310mm

黒色には「Fe+Cu」でも使用した、
剣鉾の素材である鉄(弁柄)と
銅(銅箔)を用いています。




月を見る人 / A moon watcher

2018
紙本着色 雁皮紙、墨、縁付純金箔、牛膠
320×1260mm






2021
絹本着色 墨、金泥、鉛白、兎膠、アルギン酸、楮紙
485×1390mm

剣鉾は、上から「剣」「飾」「額」「鈴(りん)」「棹」「吹散」
という要素をもって形成されています。
「額」には神号や神社名が記され、
その周縁には精巧な金工技術が施されています。
しかし本物の剣鉾をみたとき、
「額」に目が行くまでには時間がかかります。
本作品では、2016年制作の作品「Patterns」を
剣鉾の「額」に配置して、私の大きな剣鉾をつくりました。

「飾」は、剣鉾の花であり、
「飾」のデザインがそのまま鉾の名称になるそうです。
豪華な「飾」は鉾に固定するため
機能的にくくりつけられていて、
本来であれば浮いた状態にしたかっただろうと思い、
「飾」を気配として鉛白で表現しています。
「飾」があるかどうかわからない状態、
「額」が目立つ仕様は実物では成り立たず、
絵画表現でのみ成立しています。




吹散 / Cloth waving in the wind

2021
富士楮、鉛白、雲母、兎膠、アルギン酸 
330×1900mm

ふわふわと会場の真ん中をたゆたっているのは、
アワガミ ファクトリーが製造している富士楮紙(3g/u)で、
国産楮を100%使用した極薄の楮紙です。

「吹散」は棹に下げられた布で、
時代ととも長く豪華になっていきます。
揺らすものではなく風に散るもので、この
言葉を指すもっとも古い語は「比礼」です。
日本神話に登場する「比礼」には
厄を払い清める呪力がある
とされているそうなので、
この展覧会でも厄払いの風を表現するために
薄い和紙を選択し、
目には見えない風を認識する作品としました。

輝く素材である雲母を使って鈴の音を具現化(波形)し、
空間に浮いているイメージです。
見たくても見えない音と風を可視化しています。



以上、個展「8」2021 展示風景
撮影:OFFICE MURA PHOTO




鉾を差す人

2020
絹本着色 墨、雲母、金箔、金泥、兎膠、アルギン酸
330×1120mm




金の色

2020
絹本着色 松煙墨、雲母、金泥、兎膠、アルギン酸
340×1855mm




No.23 x

2020
絹本着色 弁柄、雲母、兎膠、アルギン酸
270×1450mm




No.23 y

2020
絹本着色 雲母、金泥、兎膠、アルギン酸
230×1450mm




以上、個展「Cu29 + Zn30」2020 展示風景
撮影:OFFICE MURA PHOTO




アーティスト・ステートメント

私は「自分が今住む世界に対する好奇心」を
金という素材を介して表現している。
古来、聖なるものを描くときに
用いられる金の目的は「光」であった。
2016年、卵子は受精の瞬間にたった一度だけ光る
(亜鉛のスパークが生じる)と
科学誌Scientific Reportsにて発表された。
私たちは、姿形が形成される一番初めのその瞬間に光る。
人間は、科学が発達するもっと前から、
生命誕生の瞬間には光が常に存在していたことを
無意識に気付いていて、輝く素材である金が
絵画に長く用いられてきたことと、
どこかでつながっているのではないだろうか、
と根拠のないことを考えている。.




精神の均衡のための3つの輪

2019
ボローニャ石膏、生麩糊、純金箔




Uterus Hysteria (*)

2019
ユニペーパー、生麩糊、PVA、松煙墨、純金箔、雲母
*タイトルは正式にはギリシャ語表記




ねのひのめとぎのほうき

2019
板、膠(兎・鹿・牛)、泥絵具、純金箔




子日目利箒部分標本

2019
板、膠(兎・鹿・牛)、泥絵具、新岩絵具、純金箔


以上、個展「Uterus Hysteria」2019 展示風景
撮影:OFFICE MURA PHOTO




以上、個展「false pregnancy」2018 展示風景
撮影:OFFICE MURA PHOTO




false pregnancy

2017
シナ合板、うさぎ膠、麻、ソチーレ石膏、
アシェット、雲母、方解末、金箔

「false pregnancy」は、黄金背景テンペラ画の
技法を用いた屏風、それに相対する額縁との
一双形式の作品である。
和紙の基底材では成し得なかった、金の輝きを表現する。

博士課程学位申請作品展 (2018年)展示風景より




祈りの証明

2015
1455×1120mm
黄金背景テンペラ画 麻、石膏、アシェット、
金箔、緑土、鉛白、クレー、黄土、弁柄

「 祈りの証明 」に描かれているのは私の祖父の兄が
戦争へ行く前に写真館で撮った家族全員の姿である。
そこには、私の祖父を中心とすると、
祖母、両親そして兄弟がいる。
孫が、息子が、兄が、無事に帰ってくることを家族は
強く祈ったはずである。脈々と、ここに描
かれた彼らの血液は、私の母へ、そして私へと
流れていて、私の血液や遺伝子のなかに彼らの強い祈りが
流れているのではないかと考え、これを私の祈りの証明とする。
 金を絵画表現に用いることを、誰に咎められたわけでもない。
しかし、祈りを証明したことにより、
私は金を絵画表現に用いることができる。
 「 祈りの証明 」は、黄金背景テンペラ画技法を用いて
制作した初作品である。描かれた九人の家族のなかで、
現在存命であるのは女性一人である。
よって彼女の皮膚には鉛白を用いた
。鉛白は、有毒であるが美しく発色する。
他八名は白土や黄土を用いた。この皮膚の
違いを蛍光灯の下で感じることはあまりない。
暗闇のなかで下から灯りを照らすと、
他八名の皮膚は暗闇に沈み、対して彼女の皮膚は
鉛白の底光りするような発色が、まるで幼い彼女の薄い皮膚が
血液を透かせたような青白さとなり、そしてその瞬間に
背景の磨いた金箔は色ではなく光となる。



経歴

1990年茨城県生まれ
2018年 京都造形芸術大学大学院修了 博士(芸術)
2017年 公益財団法人佐藤国際文化育英財団 第27期奨学生
2015年 日本文化藝術財団 第20回奨学生
2014年 京都新聞 掲載
(10月5日 「社殿絵図、京都造形芸大院生「緊張」の模写 離宮八幡宮」)
2013年 「離宮八幡宮絵図」現状模写 奉納 (離宮八幡宮/京都)

個展
2022年 「軸と線」(KUNST ARZT/京都)
2021年 「8」(KUNST ARZT/京都)
2020年 「Cu29+Zn30」(KUNST ARZT/京都)
2019年 「Uterus Hysteria (*)」(KUNST ARZT)
*タイトルは正式にはギリシャ語表記
2018年 「false pregnancy」(KUNST ARZT)

グループ展
2021年 「美術ヴァギナ」 KUNST ARZT
2018年 第27回奨学生美術展(佐藤美術館/東京)
2018年 画心展 Selection Vol15(佐藤美術館/東京)
2018年 博士課程学位申請作品展(Galerie Aube/京都)






沐浴後の御神酒は美味しいなあ
2018
絹、墨、鉛白、古代朱
M12号
\ 50,000




collection for other
YAMASATO Natsumi works