ST#225
sofran
ソフラン


4時間のハンドパワーによる人体浮遊ワークショップ
4 hours workshop
2003



一見、どこかの新興宗教団体のようにも見えるこのパフォーマンスは、周囲を取り囲む9人の「念」の力によって、

中央の1人の男性を空中に浮遊させようという試みであり、目には見えない「念」をアートという枠組みの中で表現しようというワークショップである。

「ソフラン」とは、洗濯に使う柔軟剤にあやかり「フワフワ」浮くというイメージ。

大人用オムツを装着した9人は、4時間、ただひたすら彼が空中に浮かぶことを念じながらハンドパワーを送り続けた。

途中、男性の体が後ろに引っ張られるように揺れ、なんとも言えない一体感と手応えを感じたものの、残念ながら浮遊させることは出来なかった。

参加者にとっては、この不合理でバカバカしい試みに対する批判というよりも、むしろ未知の可能性に挑戦したという満足感の方が大きかったようだ。

協力:小林千里、アオキタカエ、ナノグラフィカ他

(週刊金曜日2006年6月30日号より 連載「珈琲破壊」024)




「念」を送りアート表現 山崎陽子記者( 2003年7月12日 長野市民新聞より )

人間の空中浮遊・実験・

 西之門町の文化的複合スペース「ナノグラフィカ」で6月21日、とある・実験・があった。
「ソフラン」と銘打ち、9人の「念」で、一人の人間を空中に浮遊させようとの試み。
何の知識も経験もない普通の人に、そんな超常現象をもたらすことができるの?わき起る好奇心を抑え切れず、メンバーに加わった。        
 「ソフラン」とは、洗濯に使う柔軟剤にあやかって、フワフワ浮いているようなイメージ。
京都出身の美術家、岡本光博さん(35)独自の発想だ。
「現代科学では解明できない現象を、アートの枠組みで引き起したい」との動機からで、目には見えない「念」を表現した現代美術の・作品・というわけ。
 「9」の数字はエネルギーが集まる条件だそうで、実験を始めて9分後と90分後は、
一番浮遊の可能性が高い時間帯とあって、話をすることはもちろん、トイレに行くのも禁止。
大人用のオムツが配られたときは「みんな本気で成功させようとしているのだ」と感じた。
 「まずは9センチ浮くように念じてください」
 小学生2人を含めた私たち9人は、被験者の男性に向かって利き手を伸ばした。
浮いている様子を想像してみるものの、車の音や人の声で集中できない。
「回りから見れば何かの新興宗教みたいに見えるかな」。雑念が次々と浮かんでくる。
 しかし、1時間以上たったころだろうか。外の雑踏から取り残されたみたいに、心の中が静かになってきた。
何の変化もなかった男性が苦しそうに、後ろに体が引っ張られるように揺れて、座禅を組んだ手足が浮きそうに見えた。
 ほかの8人もその変化に気付いたのか、言葉も交わさないのに懸命に気を送っている。
「これは本当に浮くかもしれない...」
 約4時間の長丁場の末、残念ながら浮遊はしなかった。
体はくたくただったが、自分の精神世界に挑戦したような充実感は、あった。
 「本来人間が備えている力を参加者が感じ、信じてみる場をつくりたかった」という岡本さん。
「一見危ないワークショップ(自由な討論と作業)を受け入れてくれる場所もチャンスも無かった」ので、
今回まずは実験できたことの喜びと、今後の成功に向けて手応えを感じたーというのだ。
 「気」という実態のないものを、アートとして表現しょうという手法から、現代美術の可能性に思いをはせた一日だった。